ドナーの手術

ドナーの手術・術後経過

術後は一晩ICUで経過観察を行うことを原則としています。順調であれば手術翌日に一般病棟に移ります。手術の時に入れた経鼻胃管(鼻から胃に入れる管)は、手術後1~3日ぐらいまでには抜けることが通常です。痛みを和らげるために手術直前(手術室)で背中から挿入した硬膜外麻酔用のチューブは術後3日目に抜去します。

食事は経鼻胃管が抜けて「おなら」が出たあとに開始します。食事は流動食から徐々に普通食にしていきます。おなかの創(キズ)は問題がなければ術後一週間で抜糸(糸を抜くこと)します。おなかに入っているドレーン(管)は問題が無ければ術後10日前後から抜き始め、数日で抜き終えます。

これまで信州大学でドナーの手術を受けられた方の多くは術後3週間前後で退院し、術後2~3ケ月程度には手術前と同じ生活に戻っています。さまざまな合併症が生じた方がおられますが、いずれも保存的療法(手術以外の治療)で軽快しました。なお、術後のキズの痛みや、体力の低下、食物を手術前ほど多く摂取できない、など症状が数ヶ月続く方もおられますが、徐々に回復していきます。

ドナーとして手術を受けると、平均で2~3ヶ月は仕事を休むことになります。職場や収入への影響、御家族への負担などを総合的に考え、十分にご相談されることが大切です。

肝移植後の患者さん(ドナー)の合併症

肝移植後の患者さん(ドナー)の合併症を列挙します。
なお、一般的な情報として、可能性の高くない合併症も含まれていることをご了解ください。

上腹部の開腹手術による一般的な合併症

無気肺・肺炎
上腹部の手術で頻度が高い合併症は無気肺や肺炎です。その予防のためには痰を出したり、深呼吸をしたりすることが重要です。手術前に「呼吸訓練」を行ったり、創の痛みを和らげるために鎮痛薬(痛み止め)を使い、援助していきます。
出血
手術中の剥離面あるいは肝切離面から術後に出血することがあります。出血量が多い場合には再開腹し止血術を行う必要があります。
腹膜炎・腹腔内膿瘍
ドレーン(おなかに入っている管)からの感染などにより腹膜炎を起こすことがありえます。感染をコントロールできない場合には、再開腹が必要となることがあります。
胃・十二指腸潰瘍
精神的・肉体的ストレスにより胃十二指腸潰瘍を発症することがあります。術後には抗潰瘍薬を投与し予防に努めます。
食道静脈瘤破裂・胃静脈瘤破裂
術前から食道静脈瘤や胃静脈瘤がある方では、手術中に肝臓を摘出して新しい肝臓を植えるまでは、門脈圧が高くなり、破裂することがあります。また、術後も何らかの原因により門脈圧が高くなるような場合には、破裂することがあります。
末梢神経障害
手術中の体位や圧迫により上肢(腕)あるいは下肢(脚)に末梢神経損傷を来すことがあります。程度はさまざまですが、あっても多くは一時的なものです。ただ治癒までに6ヶ月近くを要した経験があります。この症状が利き腕におきると字を書いたり食事をしたりするのに困難を感じます。手術中の神経への圧迫を避けるよう努めています。
嗄声(かすれ声)(半回神経麻痺)
全身麻酔の際の挿管(人工呼吸のための管、手術中に用います)により声帯を動かす反回神経の麻痺が起こることがあります。軽症では、声がかすれる程度ですが、ひどいときには、食事の摂取の際に、むせたりすることがあります。重い場合には治癒までに6ヶ月程度かかることがあります。
ICU症候群・拘禁症候群
術後早期にはICUあるいは個室で治療をおこないますが、術前から存在する様々な不安や不眠などのために、幻覚や幻聴が現れることがあります。通常この症状は一過性のもで、病気が軽快し、体を良く動かせるようになると治ることが多いです。
創感染
おなかの創に細菌感染が生じることがあります。また、感染が無くても皮下脂肪が融解する(融けてしまう)事があります。このようなとき、創が開いてしまい、その治癒に時間を要したり、創が汚くなったりすることがあります。
腹壁瘢痕ヘルニア
閉腹(手術の際にキズを閉じたところ)した腹壁の筋肉の一部分がうまくつかないことがあり、その結果脱腸になることがあります。皮膚が開いてしまうわけではありません。腹壁の一部が飛び出し美容上なども含めてに問題になりますが、多くの場合、生命には影響はありませんが、治療は再手術となります。
腸閉塞
手術操作に伴い、お腹の中に癒着がおこり、このために腸閉塞が生じることがあります。多くの腸閉塞は絶食と胃管による腸内容の吸引で軽快します。しかし、血流障害を起こしたり、なかなか改善しなかったりする場合には再手術が必要です。これ以外の合併症が術後時間経過と共に起こらなくなるのに対し、腸閉塞は術後年月をおいてから発症することもあります。手術後早期の暴飲暴食は避けて下さい。

上腹部の開腹手術による一般的な合併症

肝機能障害
上腹部の手術で頻度が高い合併症は無気肺や肺炎です。その予防のためには痰を出したり、深呼吸をしたりすることが重要です。手術前に「呼吸訓練」を行ったり、創の痛みを和らげるために鎮痛薬(痛み止め)を使い、援助していきます。
胃の変形
当科で最も頻度の高いのは肝摘出後の胃の変形です。肝臓を切除したために、その空隙に胃が入り込んでしまうという意味では避けようのない合併症です。このため、胃から腸への通りが悪くなり、食物を十分に摂取できない、吐くなどといった症状が出現する方が約一割います。内視鏡をおこなうことが有用な場合が多く、時間経過とともに消失することがほとんどです。
胆汁瘻
術後肝切離面から胆汁が漏れることがあります。ドレーン(管)から体外へ流れ出ますので、重大な合併症とはならないことが通常です。数日で漏れは止まることが多いのですが、最長では術後2~3ヶ月かかった方がいます。
再手術
上記の合併症はいずれも状況によっては再手術を施行すべきものがあります。幸いなことに、これまで信州大学ではドナーに再手術を要するような合併症は生じていませんが、他施設では再手術例が報告されており、慎重に考えております。
術後の死亡
これまで国内で肝移植提供者の手術に伴う死亡が1例報告されています。このようなことのないよう最大限の努力をしておりますが、生命に関わる事態が起こる可能性がゼロではないことを十分にご理解いただきたいと思います。 ドナーになることをお考えの方は、そのような最悪の事態についてもご家族とお話し合いいただきたいと考えています。
輸血
提供者の方の術中術後の出血や腹水の流出に関しては自己血でまかなう方針であり、これまでのドナーの方は一例を除いて自己血の使用で十分でした。しかし、術中術後の予期せぬ出血などに際しては、生命を第一優先とする考えから日赤血を使用する可能性があることをご理解ください。
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